Jibu Renge

治部れんげのご挨拶

「そろそろ、独立しようと思っています」。会社員生活も17年目に入る頃、こんな近況報告をすると、意外な返事が返ってきました。「どうせなら、一緒に何かやろうよ」。働く女性や育児や教育、子どもや家族を巡る社会問題について、取材・執筆・発言している私と、金融のプロ、豊島逸夫のコラボレーションはこうして始まりました。
もともと、私は豊島の担当編集者でした。企画の打ち合わせで話を聞くたび、いつも「これ、ママ友たちにも聞かせたいな」と思いました。というのも、豊島の話は非常に分かりやすいからです。ギリシア危機の頃、街角で会った夫婦の話。中国で金製品を買う赤ちゃん連れのお父さんのこと。
豊島は20代~30代にスイス銀行の貴金属トレーダーとして、厳しいグローバル競争の世界で生きてきました。彼の話は論理的で本質を突くものであり、かつ人間に対する暖かいまなざしを含んでいます。そんな気持ちで、ママ向けのセミナーを開いたこともありました。

グローバル・ママ・ネットワークセミナー

思い出すのは私が2人目の子どもを妊娠した直後のことです。1人目の時と同様、初期からひどいつわりが始まり、しばらく仕事を休んでいました。そういう時に、豊島がかけてくれた言葉は今でもよく覚えています。家族にも職場にも迷惑をかける。もう仕事は辞めた方がいいかもしれない。そんな風に思っていた時に、まだ私でも役に立つことがある、そう思えたことは本当に励みになりました。
私の専門分野のひとつは「働く女性」です。女性が働き続け、仕事機会を広げるにあたり、重要な役割を果たすものとして「スポンサー」があります。スポンサーは単に悩みを聞いたり、キャリア上のアドバイスを与えたりするだけでなく、育成対象を積極的に後押しし、引っ張り上げます。豊島が私や他の多くのビジネスパーソンにしているのは、このスポンサーの役割と考えています。
2014年現在、政府の「女性活躍政策」が注目されています。そのために私は「男性の役割」が重要だと考えています。私自身は入社10年間ほど、出版社で経済記者として徹底的に仕事をしまして、これがその後の仕事に本当に生きているからです。時間を惜しまずに「君は何がしたいのか?」と問うてくれた上司。「この原稿はもっと面白くなる」と夜中まで添削してくれた上司。企画を出せば「面白いね!ぜひやって!」と励ましてくれた上司。これらは全て男性でした。
世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数の順位が低いことに象徴されるように、日本は諸外国と比べると女性の地位が低いです。一方、その中で働き続けている女性と話をすると、ほぼ確実に男性の「スポンサー」に出会っています。そういう存在を可視化し、増やしていくことが女性の活躍につながっていく、と信じています。

事務所にて(撮影:鈴木愛子)

私の仕事上の転機は2006年、32歳の時。フルブライトのジャーナリストプログラムでアメリカのミシガン大学に留学し、客員研究員として「アメリカ男性の家事育児参加とそれが妻のキャリアに与えた影響」について調査研究を行ったことです。日本の先を行くアメリカの共働き子育てについて、日本でイクメンやウーマノミクス、女性活躍の議論が盛り上がる少し前に現地調査をして、非常に参考になりました。調査結果を『稼ぐ妻 育てる夫』という本にまとめています。

稼ぐ妻  育てる夫『稼ぐ妻 育てる夫』
勁草書房

帰国後すぐ、私生活でも転機を迎えました。33歳で第一子、37歳で第二子を出産。核家族共働き家庭で、夫と協力しながら家庭と仕事の両方に責任をおうことになります。最近、私が行った講演の多くは「子育てしながら働くこと」をテーマにしています。どうしたら可能か。大変な時はどうしたらいいか。女子高校生、女子大生、働く女性、そして育児休業中のお母さんや小さな子どもを持つカップルまで。年齢層も幅広いです。

独立してからは、主にインターネット媒体向けに取材・執筆をしています。「東洋経済オンライン」で夫婦関係の連載とグローバル教育に関する連載を持ち「日経DUAL」に子どもを巡る社会問題に関する連載を持ち、現代ビジネスYahoo!ニュース個人では女性や子どもに関する社会問題について書いています。
インターネットは読者の反応がすぐに分かるのが面白く、取材対象者に読者の声を伝えると「こんなにたくさんの人に読んでもらえた」とか「同じことに悩んでいる人がいると知って励まされた」というご感想をいただきます。海外の友人を通じて国会議員が記事を読んでアクションを起こしてくれたこともありました。

私の職業は「フリーの経済ジャーナリスト」と名乗ると分かりやすいでしょう。自分で考える仕事の範囲は「書いておしまい」ではなく、多くの読者に読んでもらい(そのためにSNSを駆使しています)、意識や行動の変化を促し、それが社会変化につながることを望んでいます。そういう意味では「コミュニケーションを武器にするアクティビスト」という方がしっくりくるかもしれません。

都議会ヤジ時のセミナー

アクティビストとして自分の強みを考えると「強者の気持ちも分かること」と認識しています。16年間、経済記者をしてきて、大企業や官公庁や政治家、学者、富裕層など、いわゆる「勝ち組」に分類される人たちの話をたくさん聞いてきました。
世界情勢を冷静に見れば、日本だけが市場を閉ざして鎖国状態で生き続けることはできません。市場主義的な政策の中には避けられないものもあるでしょう。高齢化で社会保障・医療費がふくらむ中、増税しなくては財政が破綻するのも事実です。
本気で次世代のこと、子ども達のことを考えれば、今の経済状態を客観的に見つめ、経済的に持続可能な形で、より公平な社会を作っていくことが必要だと思います。…といったようなことを、あちこちで書いたり話したりしています。みなさんに、どこかで近いうちにお目にかかれたら、とても嬉しいです。